レジェンド・・・プロ野球界の伝説は数多くある中、この人ほどこの言葉が相応しい選手はいないでしょう。投手として現役生活32年・中日ドラゴンズ一筋に50歳まで投げ続け、通算219勝を挙げた左腕山本昌投手です。
何しろ50歳まで衰えず投げていますから、球界の最年長記録を次々と塗替えています。49歳25日で最年長勝利、50歳1ヶ月26日での登板、41歳でのノーヒットノーランなどです。その他、シーズン最多勝利3回・最優秀防御率・最多奪三振・沢村賞もそれぞれ1度獲得しています。
49歳で並み居るプロのバッターを抑え込む球を投げるのですから、そのスタミナは化け物です!
しかし、現役時代の山本昌投手の投球を見てみると、球種は130km/h台のストレートを主体に変化球は、代名詞となった伝家の宝刀スクリューの他、カーブとスライダーだけでした。
130km/hという遅いストレートと少ない変化球だけで、これほどまで長きにわたりプロの強打者を打ち取ってこれたのは何故でしょうか?
その秘訣とは何だったのかを紐解いていきたいと思います。
目次
130km/hの豪速球
球速130km/h台のストレートといったら今の時代、中学生でも投げれる速さです。ましてやプロの世界では遅いのでは?と思うかもしれません。や、確実に遅いです。
山本昌投手の投球の約45%はこのストレートでした。しかしバッターを手玉に取り三振奪取した場面は現役時代よく目にしました。コーナーいっぱいに決まって見逃し三振!といったケースが多かったように思います。実際にシーズン最多奪三振のタイトルも獲得していますし。
この球速で三振を取れる要因は、一体どこにあったのでしょうか?
ストレートの回転数
これは、ただボールの物理的な速度だけではなく、バッターにとっての体感速度が同じ球速でも速く感じたということでしょう。
よくボールの回転数が多ければ揚力が働き、ボールが手元で落ちずに伸びていくような球筋になると言われます。かつて火の玉投手と言われた藤川球児投手のストレートなどがホップする代表的な球でしょう。
伸びる球の原理や投げ方はコチラも合わせて参照してみて下さい。
150km/hを超える藤川投手の回転数は、毎秒45回転と言われます。それに比べ130km/h台の山本昌投手の回転数は・・・ なんと、毎秒52回転 もあったのです!
藤川投手よりも多いんです。普通のプロのピッチャーの平均が約37回転ほどですので、恐るべき回転数を誇っていたんですね。
この強烈なバックスピンによって、生命線である低めの球が落ちずに伸びてくるような球質になっていたんですね。これがバッターから見る体感速度の速さに感じられた1つの要因であることに間違いありません。
そして、もう1つのポイントが・・・
指1本分のコントロール
ここで言う指1本分とは、ストライクゾーンのアウト・インぎりぎりのコースに指1本分の出し入れができたということ。これはストレートに限らず、変化球も含めどの球種でもコントロールできました。
よく『 ボール1個分の出し入れ 』など表現されますが、山本昌投手の場合は指1本分のレベルまで到達していました。まさに『 針の穴を通すコントロール 』です。
こうした球の伸びやコントロールの良さに関しては、対戦バッターは勿論、キャッチャーや主審も証言していますから信憑性があります。
では、全盛期の山本昌投手の華麗なるピッチングを見てみましょう!
極めて四角いストライクゾーンの四隅だけがストライクというような精密さです。ほとんどの球がコーナーぎりぎりを突いています。そこに球界随一の回転数を誇る球が、指1本分の出し入れをしてくるのですから・・・これは中々捉えられないはずです。
そんな絶妙なコントロールと毎秒52回転という球界1のバックスピンかかった球を投げるフォームには、どこにポイントがあるのかに注目していきます。
伝説のストレートを生み出すフォーム
コントロールのいいピッチャーというのは、最後のリリースまでに中心線がブレずフォームが崩れないんですね。そのため一定のリリースポイントで投げる感覚を掴むことができます。
その辺のコツを話している動画がありますのでアップします。
体を細く使うというのは、極限まで体の開きを抑えるということに他ありません。最後の最後まで相手に胸を見せないようにしています。
ポイントは 前肩 と 後ろ膝と言っています。
- 前肩を狙ったコースにあわせて、横を向いている時間を長く使う。
- 重心を真ん中に保ったまま移動させる為に後ろ膝で調整する。
ピッチャーにとって前半身は壁を作る部分なので、ここの感覚は大切です。そこから一気にリリースすることで球離れが遅くなり、バッターにとってはタイミングが取りずらくなるんですね。
そしてもう1つ、強烈なバックスピンをかけるのに必要なのが 手首の角度 です。手首が立っているかが重要になってきます。
山本昌投手の場合は、スリークォーターで0ポジション( 1番肩に負担のない位置 )から投球スイングしていますが、リリース時には手首が立って地面に対して垂直に上からスピンをかけています。
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ピッチャーの投球をビデオなどを使いデータ化し、運動学的特徴を研究している北里大学の科学者、永見智行氏との対談で、山本昌投手が1番危惧している点です。
『 投球の中で特にスライダー。比較的簡単にマスターできストライクを取れる変化球ではあるけれども、投げ過ぎると手首が横向きに傾くクセがつきやすい。』
つまり手首が立たないで投げてしまう。これがストレートのスピードを落としてしまう結果になる。
『 ストレートが走らなくなりプロを辞めていったピッチャーを数え切れないほど見てきた。』と語っています。チェックする目安は・・・
- 球がシュート回転しているかどうか。
- ボールが指にかかった感覚
中指と人差し指どちらにかかっているか、なのだそうです。スクリューなどシュート系の球では中指。カーブ系は人差し指。ストレートは両指にかかっているか。この感覚を基本はキャッチボールからフォーム・回転数・指の感覚をチェックしながら行います。
それだけピッチャーにとって指先の感覚って大事なんですね。
『 投球フォームによって投げれる回転数・回転軸は、ある程度決まってくる。なので 自分の投げ方( 特徴 )にあった球種を選ぶことが大切になってきます。』
まとめ
32年の現役生活を終えて『 肩や肘に1度もメスを入れていない。しっかりと肩甲骨を開いて投げていた。』と語っています。長きにわたり活躍できた要因をまとめてみます。
- パワーピッチャーではないので体の負担が少なかった。
- 無理のない理想的なフォームで投げていた。
- 球界1の回転数のあるストレートで低めが落ちない。
- 全球種において指1本分の出し入れができるコントロールを持っていた。
などが挙げられるでしょう。バッターを抑えるのに速い球を持っていることは有利ですが、150km/hを超えるような快速球は才能によるところが多いのも事実です。
遅い球でも回転数のある切れの良いボールと絶妙なコントロールで活躍してきた山本昌投手の投球は、とても参考になります。
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